日常に豊かさを与えるウッドデッキがある暮らし
日本の住宅には昔から濡れ縁があって、室内空間と屋外空間の中間にある半戸外空間として生活の中に上手に取り入れられていました。
夏の夕方には夕涼みをする場として、秋には収穫した作物を干したり加工したりする作業場として。また、室内から庭に出る境界としての役割も持っています。
現在の日本の住宅では、和室や縁側自体が一般的ではなくなり、必然的に濡れ縁がある家も減ってしまいましたが、逆にウッドデッキのある住宅は一般的になってきました。
住宅の建築様式や使い勝手を考えると、ウッドデッキが生活スタイルに合っているからなのでしょうか。
ここでは傷んでしまった既存のウッドデッキを解体し、新たに目的も形状も異なるウッドデッキに作り直した一例をご紹介します。
完成後の使い方についても触れていきたいと思いますが、まさに、日常に豊かさを与える空間になっています。
1. 既存のウッドデッキの問題点
設置後10年以上が経過していた既存のウッドデッキ。見た目的には痛みが激しく、場所によっては危険な部分もあって、当初は部分的な補修と全体的な塗装を考えられていたそうですが、徐々に使い勝手やデザインも含めて全く新しく作り直したい、という考えに変わってきたそうです。
初めて現状のデッキを拝見した際に、破損箇所や腐食箇所が多く、よく見ると施工方法や納まりが不適切である事が分かりました。
確かに、これは部分的な補修というレベルではありません。
恐らく、このデッキを作ったのは一般的な大工さんで、特にウッドデッキを専門としている方ではないはずです。
(詳しくはこちらの記事をご参照ください)
また、ウッドデッキ自体が建物から離れた位置にあることが使い勝手を悪くしているようでした。リニューアルにあたって、現状のウッドデッキを解体し、そのままの場所にそのままの大きさで作り直すのではなく、設置場所や規模、使い方まで全く新しく、イチから考え直す事が大切だと思います。
2. 新たなウッドデッキの設計
ウッドデッキのリニューアルにあたり、いくつかの要望事項がありました。
「建物に近い位置(隣接した位置)に設置すること」
「部分的に屋根を設置したい(空が見える屋根を希望)」
「犬を遊ばせる事が出来るように脱走防止の手すりを設置する」などがありました。
また、建物自体がプレハブ系の住宅で無機質感が強いことから、木の良さを全面に出した意匠にしたい、という事でした。
一方で設計・施工者としては、基礎や下地の作り方や補強方法など、既存のウッドデッキと比較すると、かなり強固で耐久性の高い仕様を提案しています。
今回はウエスタンレッドシダー材を採用しているので、定期的な塗装などのメンテナンスが必要ですが、ハードウッドと比較すると温かみのある木の良さを実現するには良い選択なのだと思います。
3. 一日の中で多くの時間を過ごす場に
ウッドデッキの一部に屋根があり、多少の雨なら濡れずに過ごす事が出来るくらいのイメージで当初は設計を始めたのですが、打合せを重ねるうちに屋根の大きさや手すりの範囲が変更され、使い方のイメージも大きく変わってきました。
完成したウッドデッキは、もはやメインリビング兼ホビールーム兼ダイニングスペース、といった印象になりました。
朝は日の出とともに朝食と食後のコーヒーを楽しみ、日中はホビールームとして趣味の時間を過ごします。
夕方、日が落ちるとあちこちに置かれたランタンに灯が入り、何だかとても穏やかでゆったりした時間が流れます。
読書をしながらお酒を飲み、少しウトウトしたり。
「このウッドデッキが出来てから、ほとんど部屋でテレビを観なくなった」とおっしゃいます。
それだけ、ウッドデッキにいる時間が多いのだと思います。
夏の時期は暑さと虫の悩みがあるものの、うまく対策を講じて使って頂いているし、
冬には本格的な暖房と防寒具を使いながら、外生活の楽しさを満喫するそうです。
デンマークにヒュッゲ(Hygge)という言葉というか単語というか考え方があって、これは日常を豊かに、健康的に、満ち足りた生活を送るための根底にあるものだそうです。
例えば心地よいウッドデッキで過ごす時間や、いろいろな形のランタンに灯るやさしい灯り。
友達を呼んで外で夕食を楽しむことや、冬の夜にシュラフと毛布にくるまりながらウッドデッキ上に横になって星を眺めること。
これらが全てヒュッゲのイメージに合致したのです。
ずいぶん昔、北欧のデザインや建築を勉強していた時に偶然知ったヒュッゲ。庭づくりや家づくりをする上で、とても大切なキーワードになるんじゃないかと、ここ最近、いつも考えています。