少しずつ育てていく庭

長野県駒ヶ根市の新しい住宅地。新築の真新しい建物は、室内にも屋外にも木をふんだんに使っていて、とても気持ちが良いです。まだ完成して間もないけれど、この地に馴染んでいるような印象がありました。

周辺の家を見ると、薪小屋があったり菜園があったり、暮らしそのものを楽しんでいるような、そんな家が多いような気がします。

庭づくりについての希望は、林のような風景が欲しいことと、隣地との目隠しフェンスが必要との事でした。そして、少しずつ庭を作っていきたいという考え方。少しずつ作っていく。とてもいいなって思いました。


1. まずは庭の将来的なプランを考える

一般的にはフェンスを作りたいという依頼があれば、フェンスの計画だけをして施工し、庭木を植えたいという依頼があれば、樹種を選定して植栽する。依頼された事を粛々と形にしていくのが我々の仕事なのだとは思います。

でも、いつも感じることは、最初の段階で、ある程度の未来想像図を作ることが重要だという事。決して、その通りにならないにしても、どういう思いでこの木を植えて、今後はどんな庭に育てていきたいか。それを整理しておくことは、将来に向けた庭づくりの方向性や可能性を、家族と設計者で共有するためにも大切なことだと思います。

将来想像図

庭全体を計画し、将来の庭づくりの道しるべとする

施工前1

施工前の庭は平坦で日当たりも良く、周囲が見通せる

施工前の玄関前

道路から玄関まで少し距離があり、平坦で障害物もない

今回は玄関前のアプローチ空間、目隠しの木製フェンス、庭の植栽。次回は駐車場や裏庭、さらにその次にウッドデッキと家庭菜園。少しずつ庭を作っていく過程を検討しながら、実際の工事に入っていきます。

レイズドベッド

今後、レイズドベッドによる家庭菜園を計画

2. 木製フェンスが庭を広くする

着工する頃、丁度隣地の建築工事が始まるタイミングでした。お隣はバックホーが入って基礎工事のための掘削が始まり、こちらはフェンスの基礎を設置するための掘削を、剣スコップとツルハシで始めます。圧倒的なパワーの差ですが、フェンスの施工で重機を入れることはほとんどありません。手作業あるのみです。

その土地によって地中(地表)の状況が全く違いますが、ここの特徴はとにかく石が多い事。人の顔より大きな石が、土の中からゴロゴロと出て来ます。悪戦苦闘しながら掘削し、基礎を設置します。傍らには石の山。お隣の現場では、あまりの石の多さに重機が対応できず、さらに大きな機種へバトンタッチしていました。

基礎工事

基礎の工事では土の中から石がたくさん姿を現す

フェンスの施工

フェンスの柱を仮に建込み、高さの確認を行う

木製フェンスが完成すると、庭が広くなったように感じることがあります。実際はそんなことはないのですが、フェンスによって庭の領域が明確化されることで、そう感じるのだと思います。

フェンスと言えば、防犯や目隠しといった用途ばかりを想像しがちですが、庭を広く見せたり、植栽の背景としてスクリーンの役割をしたり、アトリエタムロの庭では、とても重要な役割を担っています。

フェンス施工後

木製フェンスの設置が完了、庭の領域が明確化する

3. 林の中を歩くようなイメージ

植栽計画をする際に考えることは、植栽スペースを列として考えるのではなくて、例えば海の中にいくつも浮かぶ島々のようなイメージ。

島と島の間には細い小路が出来、それぞれの島には高木と中低木、宿根草などがこんもりと育ちます。

小路のイメージ

島状に配置した植栽スペースの間を通り抜けるように小路を計画

島状に植栽することで、奥行き感が強調され庭を広く見せる効果があります。また、少ない本数の庭木でも、前後に重なり合う木々は、まるで林のように見えます。島状の植栽スペースと、その間に出来た小路。植物が成長していくと、まさに林の中を歩くような感覚になっていきます。

4. 道路から玄関までは少しのドラマを

道路から玄関までの距離が取れる場合、アプローチのスペースは少しドラマチックに仕上げます。庭に作った木製フェンスと同じデザインの袖壁、家のシンボルになるカツラの木、錆色の御影石、錆色の砂利、島状の植栽。

通路はあえてまっすぐに作らず、少し湾曲しながら玄関へと続きます。通路にはジューンベリーやクロモジの葉が被さり、季節によっていろいろな表情を見せてくれます。

 

アプローチ空間

フェンスと同じデザインの袖壁、錆色の砂利を敷き詰めた通路

また、アプローチ空間の一角に設置した水場は、那智黒石と、現場から出た形の良いゴロタ石を使って、少し楽しげで優しい雰囲気を演出しています。

砂利を敷き詰めた水場

通路の一角にある印象的な水場

5. 庭木を選ぶ時に考えること

庭木を選ぶ作業は、いつも楽しい気持ちになります。季節感の演出や建物との調和、花や木の香りなど、いろいろな想像が膨らむ瞬間です。

一方で、その地域の標高や気象条件、植栽場所の日当たり、風通しなどをしっかり把握することも大切です。
同じ地域でも、標高の差によってヒメシャラが育たないとか、関東地方の住宅地でよく見られるシマトネリコが、信州では植栽出来ないなど、植えたい樹木がその場所で健全に育つかどうかの判断が出来なければなりません。

こちらの庭にも様々な植物が植えられています。落葉樹も常緑樹も、高木も低木もあります。

玄関前のカツラにジューンベリー、クロモジ。これらは季節感を表すのに最適な樹種です。

玄関前の植栽

アプローチ通路を彩る木々と木製袖壁

主庭にはアオハダやシャラ、ツリバナ、エゴノキなどを植栽して、心地よい雑木林のイメージを。

北側の半日陰部分には、目隠しのために常緑ヤマボウシとシラカシを列植。

これらの樹木の傍らには、アジサイ、ライラック、オオデマリ、ヤマブキ、コムラサキにムラサキシキブ。更に地被植物や宿根草が彩りを添えます。

あと何年かすれば、庭の中で林を感じる事が出来る、そんな空間になっていると思います。木々の間を通り抜けて室内に入ってくる風、きっといい香りがするんだろうな。


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